海外に住んでいると、「治安はどう? 危なくない?」とよく聞かれます。これを聞かれるたびに、わたしは「どう答えたものかなぁ……」とちょっと迷ってしまうんです。というのも、『なにを基準に治安を判断すればいいかわからない』から。
わたしは、ドイツの治安は『いい』と思っています。それと同時に、「だからといって日本と同じノリで過ごすなよ」とも伝えています。
ドイツの治安は日本と比較すれば『悪い』
まず大前提として、日本の治安は『いい』です。まちがいありません。とにかく物が盗まれない。これがまずめちゃくちゃすごい。酔っ払った友達が「ウェーイ」って財布投げ捨てたけど、次の日交番に行ったらちゃんと届いてました。定期(2万円チャージ済み)ですら届いてましたからね。あなたが神か。
席を取るために携帯を置いていく人もいるし、カフェではノートパソコン置いてトイレに行く人もいる。無防備すぎてハラハラしちゃうけど、ほぼ100%『大丈夫』。これが日本です。すごい。
それに比べたら、ドイツの治安は『悪い』といえます。
バーで飲んでたらカバンを盗まれたことがあって。鍵、ビザ、iPhone、iPodなど、全部なくなりました。電車でサブバック(単語帳と参考書と筆箱入り)を忘れたときも、返ってきませんでした。
日本では夜22時にひとりで歩いていてもあまり不安はありませんが(音楽は聞かない、定期的に後ろを振り返る、などはする)、ドイツじゃ戦々恐々。だれかと一緒に帰るか、彼に迎えに来てもらいます。実際なにかあったことはないけど、ドイツで女の深夜一人歩きは『ダメ』なのです。
なにかあってからじゃ遅い。自衛は当然。「たぶん大丈夫」なんて考えない。「もしかしたら起こる」ことを考える。
そういう意味では、ドイツの治安は『悪い』のかもしれません。
ドイツの治安は『いい』と思う理由
そんなことを言いつつ、わたしはドイツの治安が『いい』と思っています。というのも、比較対象の基準が日本ではなくなったから。
まったく想像できないけど、世界には、こぎれいな服を来て歩くだけでも命の危機を感じる地域があります。スリは「こっそり盗む」ではなく、「ころしてから盗む」。ぼったくりも当然、流しのタクシーはアウト、日常的に暴力的事件が転がっている。
そういう地域を基準にすれば、ドイツの治安は『いい』のです。
ヨーロッパの「治安がいい」は、「生命の危機を感じずに日常生活を送れる」「基本的に大事件に巻き込まれない」くらいの認識であって、「スリがいない」「夜道をひとりで徘徊しても問題ない」ではないので注意してください。
— 雨宮@『日本人とドイツ人』新潮新書 (@amamiya9901) December 8, 2018
「写真撮ってください」とiPhoneを人に渡すのですら「危ない」認識なので。
ドイツ人やドイツにいる日本人に聞いても、「ドイツは治安が悪い」とは言わないと思います。わたしも、「治安が悪い」とは思いません。
でもそれは、「犯罪が起こらない」という意味ではありません。「自衛を怠らずに気をつけていれば基本的に犯罪に巻き込まれずにふつうに暮らせる」という意味での『治安がいい』です。
ただ、この『治安のよさ』を、『日本と同じレベル』で考えてしまう人もいるようで。日本人観光客を見ていると、「あわわわわ」となることも多いです。「これだけ人がいるしドイツは治安がいいって聞いたから大丈夫だろう」みたいな。
それは! ちがいますよ!!
ドイツでは当然警戒すべきこと
「海外で注意すべきこと」といったら、まぁ財布を隠すとか、カバンは前にかけるとか、そういうことを想像しますよね。そういうのも大事です。やるべきです。
でも、日本人が『想像できない警戒すべきこと』もいっぱいあります。まぁ想像できないのに警戒しろって言うのは無理があるけど……。
たとえば、電車のなかで寝る。日本では老若男女みんな爆睡していますが、ドイツでは基本NGです。盗まれるかもしれないから。写真を撮ってもらうためにスマホを他人に渡す。これもかなり警戒します。持ち逃げされるかもしれないから。
以前電車で、持ち主不明のスーツケースが通路を塞いでいました。日本人なら、「忘れ物かな。届けたほうがいいかな」って思うじゃないですか。ドイツではちがいます。だれかが警察に通報し、電車は次の駅で停車。テロかもしれない……と騒然。
まぁ、爆音で音楽を聴いていてまわりの騒ぎに気づかなかった少年の物だったんですけどね。
日本では「落し物」でも、ドイツでは「持ち主不明の不審物」なわけです。日本のノリで変に触っちゃうと、思わぬトラブルに巻き込まれるかもしれません。
前に友だちとイギリス旅行したとき、「レストランは大通り限定で、ホテル経由で予約してもらう。22時には絶対ホテルに戻る」と言ったら、「そこまでする?」って言われたことがありました。
「せっかくだからお酒も飲みたいし、レストランいっぱいあったから気分で決めればよくない?」と。
いやね、気持ちはわかる。でもお互い、この国でサバイバルする能力ないじゃん。ぼったくられても抗議する語学力ないじゃん。ヨーロッパの冬の22時、どれくらい人がいないか知らないだろ。新宿の22時とはちがうんだよ。……と思ってしまいまして。
もちろん友だちに悪気はないし、その子のことはすごく好きだけど。ヨーロッパ旅行楽しんでほしいけど。でも、警戒しすぎるに越したことはないんです。何かあってからじゃ遅いんです。
ある程度自衛方法を身につけている人ならもうちょっとのんびり構えますが、そうじゃなければ、これくらい自衛するのは当然だと思います。いくら『治安がいい』と言われている地域であっても。
治安が『いい』は『無警戒でいい』ではない
ドイツの治安はいいと思います。ふつうに過ごすだけなら、危険なことはまず起こりません。せいぜい、財布を取られるくらい。傷害事件などに比べれば可愛いものです。
ただ、治安がいいというのは、無警戒でいいというわけではありません。
日本は基本的に、無警戒でも平和に安全に過ごせます。まぁよくないけどね。警戒はしたほうがいいけどね。
でもドイツでは、無警戒はカモがネギ背負って爆睡してるようなものです。カモられ放題です。無警戒は、『犯罪に巻き込まれる可能性が爆上がりする』のです。
日本が安全だから、ドイツでも「まぁ平気でしょ」とか、「思ったより安全だから大丈夫そう」って、自己判断で警戒を解いちゃう人が多いんですけど、本当にやめたほうがいいです。
神経質になって命が助かるなら、トラブルなく滞在できるなら、神経質になったほうがいいす。
「自分は大丈夫だった」ってドヤ顔で言う人がいますが、「だからなんだ」って話でして。
「風邪が流行る季節だから風邪の予防をしましょう」に対して、「わたしは去年も風邪を引かなかったから大丈夫」って腹出して寝てる人がいたらツッコミたくなるでしょう。そういうことです。
まぁ長く住んだら、必要に応じてまわりにSOSを求めたり、なにかあったら警察や役所に自分で行って対応できるので、また事情は変わりますが。
ドイツ滞在をより楽しむために安全を心がけて
ドイツの治安が悪い、危ない、と言いたいのではありません。ドイツの治安はいいと思う。かなりの確率で、何のトラブルもなく滞在できます。
でも、警戒はすべきです。とはいえその『当然の警戒』が日本人には不慣れで、気づいたら無防備になっていることもある。だから、より一層気をつける必要があるわけです。
注意喚起ツイートに対し、「滞在国を悪く言うなんて寂しい人生」というクソコメントをいただきましたが、全然ちがいます。滞在を楽しむために、安全には気をつけるべきなんです。
むしろ「女の1人旅でも全然大丈夫! ドイツは治安がいいから安心してね!」なんて言ってトラブルになったらどうするんですか。
無責任なこと言うくらいなら、注意喚起しといたほうがよくないですか。ドイツを楽しんでほしいもの。トラブルを避けてほしいもの。
「いろいろ気をつけてたけどなにもなかったよ〜」というのなら、それに越したことはありません。安全が一番。
ただ、気をつけることでトラブルを防げるのなら、気をつけるべきです。その国に不慣れならなおさら、根拠のない油断をして後悔するより、過剰なくらい気をつけて安全に過ごしたほうがいいでしょう。
ドイツはだいたいの場合安全。でも日本と同じノリで滞在するのは危険。そこらへんのさじ加減ができないのであれば、常に警戒しておいたほうが『安心』。
多くの人にドイツを好きでいてもらうためにも、そこらへんは伝えておきたいです。
「お前カバンを盗まれてるじゃん」ってツッコミはやめてくれよ!! めちゃくちゃ反省してるから!! 移住してからはなにも盗まれてないから!!