結構前から話題になっている「恋愛工学」。気になってたので、一昨日、『ぼくは愛を証明しようと思う。』を読んでみました。
物語としてはおもしろかったんだけど、「恋愛工学」ってむしろ恋愛の本質を見失ってるんじゃないかな?という印象でした。
恋愛工学とは?テクノロジーで女を攻略
恋愛工学というのは、藤沢数希さんが提唱する「男性向けの恋愛マニュアル・ノウハウ」です。恋愛に特化した心理学っていうのかな。
その藤沢さんが執筆した『ぼくは愛を証明しようと思う。』という小説では、マジメで一途で重い、モテない27歳の渡辺が、恋愛工学によって人生を切り拓き、謳歌する――という雰囲気を出しながら、つまりは女を食い漁る内容です。
一部の熱狂的な信者がいる恋愛工学ですが、果たしてこれは「恋愛」なんだろうか……?
恋愛工学が提案する女を落とすテクニック
藤沢さん自身は、恋愛工学を「学問」としてとらえてらっしゃるようです。たとえば、ミラーリングというコミュニケーション技術。
相手が飲み物を飲んだら自分も飲む。足を組んだら自分も組む。そうやってシンクロさせて、波長を合わせていくことです。そうすると、相手は「この人と気が合うかも!」と思うらしいです。
恋愛工学というのは、そういったテクニックを駆使して、多くの女性から連絡を聞きだし、デートし、お持ち帰りすることが目的なようです。
僕たちプレイヤーは、熟練した金庫破りが精密な道具を使い分け、どんな金庫の扉も開けてしまうように、恋愛工学のさまざまな道具を使って、女のまたを開いてしまうのだった。
出典:『ぼくは愛を証明しようと思う。』
こんなことを書いちゃうあたり、女を肉欲の対象にしか見ていないんでしょう。
テクノロジーのよって恋愛に勝利するというウソ
「恋愛工学」というのは、結局は「どれだけ女に夢を見させ、自分に夢中にさせ、一夜をともにするか」を説いているだけです。そこには恋も愛も存在せず、ロマンチックな雰囲気で包んだ、女への欲望があるだけ。
それが悪いとは思いません。むしろ日本人はそういうのをもっとオープンに楽しめばいいとすら思います。
でも、「いかにスマートに連絡先を聞きだし、お茶に誘い、部屋へ連れ込み、ベッドインするか」は、「恋愛」なんでしょうか?
恋愛の最終目標が一夜を過ごすことなら、そこで恋愛は終わりってことになっちゃいますよね。
実際、冴えない男だった主人公は、「恋愛工学」によって数々の女に声をかけ、女をモノにしていきます。同意の上なんだから、それ自体はどうも思いません。でも、恋愛工学で攻略できるのは、恋愛ではなく、性欲の処理だけです。
恋愛工学だなんだとカッコよく言っていても、ひたすら女に声をかける軟派男というのが客観的事実です。
恋愛工学で救われる人間がいるのか?
恋愛工学は、モテない男性が女性を「攻略」することによって自信をつけ、男を磨き、さらにモテるためにあるんだろうと思います。
でも実際、恋愛工学で一体だれがしあわせになるんだろう。読んでいてもわかりませんでした。恋愛工学の目的は、結局なんなの?
モテることで冴えない人生から脱出!で?
恋愛工学で救えるのは、「モテれば人生バラ色になる!」と信じ込んでいる、冴えない男性だけです。
「救う」といっても、理想的な女性と巡り合って一緒に幸せになるということではなく、ただ「不特定多数の女と関係を持てる」、つまり経験人数を増やすといった意味です。
整形でもそうだけど、自信をつけることで人生が上向きになる人はいるでしょう。でも冴えない男から究極のナンパ師になった主人公は、別になにも得ていないんですよ。
ムダとも思えるほどの女の連絡先、ムダに豊富な経験人数、ちょっとお洒落になったファッションと髪型。それくらい。
この本を読んで「恋愛工学をもっと早く知っておけば!」と言う人は、単純に「もっと多くの女を抱いときゃよかった!」って後悔しているだけだと思うんですよ。いや、なんかちがくない? 恋愛ってそういうことじゃなくない?
恋愛工学はだれを幸せにするのか
恋愛工学っていうのは、最初は電車男みたいなのをイメージしてたんです。冴えない男が、好きな人に振り向いてもらうために使うテクノロジー。かと思いきや、ただのチャラ男が生まれただけでした。
女性としても、まともに付き合う気のない、とにかく寝るために知恵を絞っているナンパ師とワンナイトラブを経験したところで、一瞬のロマンチックな時間を過ごせるだけ。たいしたメリットはありません。
モテない人を救う!みたいなイメージだったけど、「何人と寝たか」が「成果」とされる恋愛工学で、本当にだれかが幸せになれるのか、疑問です。
むしろ、勘違いしたモテない男子たちが、「とにかく連絡先聞きまくって部屋へ連れ込めばOK!抵抗するのは『嫌よ嫌よも好きのうち』だから押せばOK!」って暴走する予感しかしません。怖い。
恋愛工学よ、恋愛の本質はモテることに非ず
恋愛っていうのは、人の幸せを願う優しさが必要です。自分の思い通りになるように相手を誘導するとか、都合よく呼び出すとか、そういうことじゃないです。
だから、うわべだけで不特定多数からモテていても、恋愛の本質からは離れていくだけなんです。
人を好きになって、好きになってもらって、幸せを願って、幸せを願ってもらう。そういった恋愛をしてはじめて、心が満たされます。
恋愛工学自体を批判するつもりはありません。同意の上なら、みんな楽しめばいいと思います。わたしも、好きな人の気を引きたくて、多少あざといことをしたこともありますし。
でも、相手の幸せを願う優しさよりも、自分の欲望の処理を優先するのは、どうしても「恋愛」の幸せから遠ざかっているように思えるんです。
プラトニックな恋愛が正解というわけじゃないけど、女を攻略してベッドインすることが、恋愛のゴールではないはずです。
恋愛の本質は、不特定多数から表面上モテるんじゃなくて、お互いの幸せを願えるような優しい気持ちで相手に接することじゃないでしょうか。
そういう意味では、恋愛工学は恋愛をまったく攻略できていません。
物語としてはおもしろくて一気読みしちゃったけど、恋愛工学を鵜呑みにして本当の恋愛の楽しさを見失う人や、女性は替えがきいて意のままに扱えると勘違いする人がでないことを祈ります。