大御所・大前研一さんのデマ記事に全力で反論、訂正します

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先日読んだ大前研一さんのBLOGOSの記事がウソばっかりだったので、Facebook上で怒涛のツッコミをいれました。お相手が大御所だったということもあり、著名人含め多くの方がわたしの投稿を読んでくださって、100回以上シェアされています。

 

多くのリアクションをいただいたので、「ちゃんと記事にしよう」と思って、もう一度全力で反論、訂正します。

 

個人的に大前さんを叩く意図はまったくないのですが、多くの人が正しくない内容の記事を読み、信じてしまうのを防ぎたいと思います。

 

大前研一さんのデマ記事に反論します

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出典:大前研一「入試なし。猫も杓子も大学、の逆を行くドイツ式教育」

 

大前研一さんが、『大前研一「入試なし。猫も杓子も大学、の逆を行くドイツ式教育」』という記事を書いていました。

 

記事冒頭には「本連載では大前研一さんの著作『日本の未来を考える6つの特別講義』より……解説します」、記事の最後には「話し手:大前研一さん」とあるので、第三者がまとめたのかインタビュー記事なのかがよくわかりませんが、大前さんの情報ということは事実でしょう。

 

ドイツの教育ということで読んでみたら、失笑するレベルのウソばかり。恥ずかしながらわたしは大前さんを知らず、「だれだよこんな適当な記事書いてるやつw」と思いながら読みました。

 

お父さんに、「ビジネスマンならだれでも知ってるよ!」と言われ、「そんな有名な人なのか!」と驚きました。それと同時に、「そんな有名な人がこんなデマ記事書いてるとか世も末だな」とも……。

 

まちがった情報が広がるのはイヤなので、ドイツの大学に入学したわたしが、統計を踏まえて全力で反論、訂正します。

 

大前さんのデマ記事を訂正します

わたし自身、思い違いをしていたり、誤解を招く表現を使ってしまうこともあるので、重箱の隅をつつくようなやり方はしません。が、明らかにまちがっている情報はきっちり訂正します。

 

ドイツの大学は入学自由?

以下、引用部分は問題記事『大前研一「入試なし。猫も杓子も大学、の逆を行くドイツ式教育」』からです。

 

ドイツの大学には入学試験がありません。高校卒業資格というのがあって、その資格さえあれば、全国どこの大学のどの学部にも、自由に入学することができる。(略)

タイミングを含めて出入り自由ですから、入学式もなければ卒業式もありません。

 

ウソです。

 

多くの人気学部は、ギムナジウムの卒業試験(イメージでいうとセンター試験)の成績がいい順に、定員に達するまで取っていく足きりシステム(NC)を採用しています。

 

記事内の図に、「入学希望者が学部の定員を越える場合は、入学者制限が行われる」と書いていますが、これもちがいます。基本的に募集開始する前から「入学者制限の有無」を発表してます。 

 

また、「出入り自由」ではありません。冬学期入学(10月スタート)が主流なうえ、学期の途中での入学はできません。入学式・卒業式というかたちは一般的ではありませんが、公式のウェルカムパーティーや卒業パーティーがあることも多いです。

 

ためしに、ベルリン大学の 文系学部の一部を見てみます。大前さんが言い切っている「入学自由」の学部(足きりなし)は赤いラインマーカー、「入学のタイミングが自由」(夏学期・冬学期両方とも入学可能)は青いラインマーカーを引いています。

 

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出典:Kombinationsbachelor (ohne Lehramtsoption) — Humboldt-Universität zu Berlin

 

スクショに収まる文系学部のみですが、大前さんの言う「だれでもいつでも入学できる」2つの条件を満たしている学部は、このなかにはありません。ベルリン大学を例に挙げましたが、どこも似たようなものです。

 

わたしは夏学期入学だったから、入れる学部少なくて苦労しました。日本の高校の評定平均をドイツの成績に換算して、その数値をもとに合否が決まったんです。成績が足りず希望学部に行けなかった人もたくさんいましたよ。

 

ドイツの大学も単位がなきゃ卒業できない

続いてはこちら。

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出典:大前研一「入試なし。猫も杓子も大学、の逆を行くドイツ式教育」

 

②の部分、「日本の大学のような、何単位とったから卒業といった概念はない」「修学したゼメスター(学期)数と、最終的にどのような試験に合格したかによって定まる」はちょっとちがいます。

 

試験に合格したら、単位がもらえます。試験に合格しなければ単位をもらえないので、卒業できません。当然ですよ。単位という概念はあります。

っていうか、学位取得する大学で、単位と卒業が直結しないってありえるんでしょうか……。試験に合格しても単位は必要ないってこと?

 

ドイツのカリキュラムはほとんど必修でできているので、カリキュラム修了=単位が足りている→卒業なんです。例として、ベルリン大学のドイツ文学科を見てみます。

 

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出典:Deutsche Literatur — Humboldt-Universität zu Berlin

 

主専攻の場合、卒業に120LP(単位)必要です。このように、各モジュールごとに単位が定められています。71単位は必修、29単位は選択必修、20単位は自由科目。この120単位に副専攻60単位が加わって、180単位で卒業です。

 

何単位とったから卒業といった概念はない」「最終的にどのような試験に合格したかによって定まるはおかしいですね。卒業のために単位が必要だから、試験を受けるんです。

 

大卒者の統計がない…だと?

これも100%ウソですね。

 

ドイツの場合、「大学卒就業者が何%」などという統計はそもそも存在しません。

 

「新卒という概念がない」って言いたかったんだと思いますが、「就業者の何%が大卒か」という統計は存在します。ちなみにこれは、ドイツ連邦の統計局から引っ張ってきてます。

 

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出典:Frauen und Männer auf dem Arbeitsmarkt

 

左が女性で右が男性の統計。黄色部分が、「大学卒業、もしくはそれと同等の資格を持っている労働者」の割合を表しています。2011年の女性労働者なら、26%が「大卒就業者」ってことになりますね。

 

 

 

ドイツの「高校」ってなに?

お次はこちらです。

 

ドイツは職業意識が非常に高いので、高校卒業者の約半数が、大学ではなく職業学校で手に職をつけることを選びます。

 

突然ですが、ここでクイズです。ドイツで「高校卒業者」ってだれのことでしょう?

 

高校って、中学校を卒業した人が行く学校ですよね。では、ドイツの教育制度のなかから高校を探してみましょう。

 

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出典:難航する学校改革 - ドイツ生活情報満載!ドイツニュースダイジェスト

 

はい、ありません。

 

基礎学校は小学校みたいなものですが、中学校・高校という概念がありません。実際ドイツ語のウィキで「高校」を調べると、見出しが「Highschool」になっています。対応するドイツの教育機関がないので、訳せないんです。

 

では、大前さんの言う「高校卒業者の約半数」ってどこのだれのことでしょうか。記事中では、ドイツの教育制度をこのように図式化しています。

 

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出典:大前研一「入試なし。猫も杓子も大学、の逆を行くドイツ式教育」

 

赤枠で囲っているいることから、「高卒=前期中等教育が終わった段階」のことを言っているのだと思います。でもこれ、まちがってます。

 

赤枠で囲ってある部分は、「基幹・実科学校の卒業生の進路」です。基幹・実科学校の卒業生は、基本的に大学入学資格がありません。そう考えると、基幹・実科学校卒業生を日本基準の「高卒」とはいえないでしょう。

 

基幹・実科学校卒業生を「高卒」というのもおかしいですが、「職業意識が高いから高校卒業者の約半数が職業学校へ行く」っていうのもなかなかズレています。

 

基幹・実科学校卒業生は総合大学へ進学することができないから、職業教育を受けるんです。そうじゃないと就職できる場所がかなり限られますから。ドイツはバリバリの資格社会なので。

 

「図がまちがっているだけで、ギムナジウムを卒業した人を高卒と考えている」可能性もあります。ギムナジウムとは中高一貫校で、ギムナジウムの卒業試験に合格=大学入学資格になります。一般的に。

 

ということで、大学入学資格がある、「高卒」と言えそうな人が、「約半数職業学校に行っているか」を調べてみました。

 

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出典:Studium: Nach dem Abitur wollen 80 Prozent an die Uni oder FH - SPIEGEL ONLINE

 

濃い水色が「大学からすでに入学許可」された割合、薄い水色が「絶対大学に通うつもり」の割合です。2012年、74%の「高卒と言えるかもしれない人たち」が大学進学予定なので、どの道まちがってますね。

 

大卒優遇社会はドイツもです

あ、飽きはじめてますか? わたしもちょっとイヤになってきたわ! でもどんどんいくよ!

 

学校を出た段階でみんな腕に覚えがあるので、間違いなく食べていけます。社会も安定します。職業学校へ行く道を選んだ人と、大学へ進学する道を選んだ人の間で、生涯給もあまり差がありません。

 

えー、「みんな間違いなく食べていける」状況は、「みんな腕に覚えがあるから」ではなく、「ドイツの経済が堅実だから」です。ドイツの経済が悪化したら当然失業率は上がります。

 

で、大卒と職業学校卒業者の給料は、明確に差がでます。「差がない」のはウソです。

大卒が優遇されないんなら、みんなわざわざ学位をとりません。ドイツの方が日本よりよっぽど階級社会です。

 

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出典:Uni, FH oder Ausbildung: Sie wollen viel Geld machen? Dann studieren Sie… - FOCUS Online

 

小さくて見づらいですが、「手取りで稼げる学部・職業教育ランキング」で、左が男性、右が女性です。 

「Uni」は総合大学の学部、「FH」は単科大学の学部のことで、「bAusb」が職業教育を修了した人です。

 

ざっと見た感じ、「Uni」の学部出身者の方が稼げるチャンスが大きいのは明らかです。給料に差はあります。

 

だから大卒じゃない人は、その後働きながら大学に行ったり、Weiterbildungとかをしてステップアップするんですよー。

 

日本の大学にドイツの職業教育はムリです

あともうちょっと! もうちょっとで終わるよ! 読むの諦めないで!!

 

日本ですが、大学を卒業しても実務で役に立たないという大きな問題があります。入学者が減少している地方の大学などが、企業と連携してドイツ式のデュアルシステムを導入すれば、学生の獲得につながるかもしれません。

 

はぁ?????

 

『デュアルシステム』というのは、職業学校行きながら働く職業教育のこというんです。で、働きながら学位とるのはduales Studiumってまた別な話なんだよ!

ドイツの職業教育(デュアルシステム)を大学に取り入れたら、それはデュアルシステムじゃなくduales Studium!

 

日本の大学にduales Studiumを取り入れるか、日本の専門学校にデュアルシステムを取り入れるならわかるけど、日本の大学にデュアルシステムはおかしいですねー。

 

ドイツ型人材の定義をしてください

最後! ラストだよ! 時間かかってますよ! うららかな土曜日の朝8時半だよ!(ドイツ時間)

 

手に職のない、実務で役立たない大卒者を量産するよりも、ドイツ・スイス型の安定した人材、腕に覚えのある人材を育てる方が社会にとって有益です。

 

先生質問です! 「ドイツ型の人材」ってなんですか! 職業教育受けた人のことですか! 職業教育受ける人(黄緑)と大学へ行く人(緑)は同じくらいになってるんですが、それはどうなんですか!

 

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出典:• Infografik: Studium versus Ausbildung | Statista

 

職業教育を受ける人は減って、大学進学者が明らかに増えてます。この状態で、「ドイツ型人材=職業教育を受けた人」ってのはムリがあるんじゃないでしょうか。

 

正しい情報を信頼してください

えー……結論として、この記事はドイツの現状を踏まえてるとは言いがたい、まちがった内容の記事です。わたしは大前さんになんの恨みもないですが、この記事はいただけない。

 

まぁぶっちゃけ「大前研一」と「駆け出しライター雨宮」のどっちを信じるかって言ったら、みんな大前さんを信じますよねー。権威って信頼度を高めるからね!

 

でも今回に限って言えば、記事は信用できる内容ではありません。ので、反論しました。これでわたしがまちがってたら超カッコ悪いですが、大丈夫でしょう。全部統計つけてるし。

 

ドイツが誤解されないことを、ドイツから願っております。